30年以上前の働くお母さんはまだ少なかった時代。

母は同居祖母との折り合いが悪いこともあって働きに出ていた。

母親っ子だったので寂しかったし祖母は怖かったが母のためと我慢していた。


私が小学校五年くらいのとき、ダミ声の知らない女の人から電話がかかってきた。

「あなた○○さん(母)の娘さん?」

「はい」


「あなたのお母さん、浮気してるわよ」

とだけ言われてガチャ切り。

ショックで頭の中が真っ白になった。

不安で眠れない日が続いて食事も喉を通らなかった。

胸がつぶれるような思いだった。

友達から

「お母さんキレイだね」

と羨ましがられることも多かっただけに一時期は疑心暗鬼になったが母は本当に真面目な人間だったし私のために寄り道もせずいつも同じ時刻に帰ってくることを知っていたので母を信じて電話の事は誰にも話さなかった。

最近母が亡くなり、葬儀の後に歳の離れた姉にこの話を打ち明けると

「それはたぶんお母さんの同僚のAさんだと思う、ダミ声だったし」

と断言した。

姉は高校卒業後、母と近い職場に就職していたのだが(雑居ビルの1階と6階、みたいな感じだと思ってください)母がAからいやがらせを受けていた事を後々知ったらしい。

A(既婚)は同じ職場のB(既婚)が好きだったが、Bは母に不倫を持ちかけていた。

母は丁重にお断りしたけど、居辛くなったBは移動願いを出して職場から去ってしまった。

AはBに相手にされなかったこと、異動してしまったこと、すべて母のせいと逆恨みして母が不倫してるとあちこちに言いふらしていたらしい。

(職場の人は母を信じてくれたそうですが)

まさか家にまで電話していたとは思わなかった、と姉も驚いていた。

母は酒呑みのろくでなしの父にぞっこんで私たち姉妹がいくら別れろと言い聞かせても絶対別れなかった。

浮気は絶対していないとあらためて確信出来てほっとした反面、逆恨みで小学生にこんなデマを吹き込むなんて本当に最低な人間だと怒りが湧いてくる。

ただ母を信じて言わないでいて誰にも言わないでいてよかった、とは思ってる。