数年前、父が死んだ。 
父は元々がん家系&男は早死に系の家の人で、早期退職で多めに退職金ゲット、 
単身赴任先から帰ってきて半年ほどでまさに「ぽっくり」としか言いようのない死に様だった。 
ローンの残ってた家は父の退職後は母が返していく予定だったが、名義が100パーセント父だったため? 
かなにかで、返済もなしになったといっていた。 

母は父とは10歳近く違う年の差結婚でまだ40代だった。
ラブラブとまでは行かなかったが仲は良く、父が帰ってきたときはくっついて一緒に眠ったりして、
思春期には恥ずかしくて怒りがあった覚えがある。 
父の死について、
母は「嘱託で働く予定で契約もしてたのに、そちらに迷惑がかかるのが心配」といった程度で、 
仲が良かった割にはけろっとしたものだった。 
むしろ、あまり親交のなかった親戚が
「嫁子(母)による殺人だ、退職金目当てだあいつは浮気している」とかうるさかった。 


しばらくして母に呼ばれ実家に帰ったとき、実家の近くでAさんという人を見かけた。 
Aさんは昔、私も所属していた子供野球のコーチをしてた人。 
それだけに子供あしらいが上手く、私も大好きだった。 

いつも笑ってて子供にも舐められやすい人だったが活動には真剣で、怒ると怖いコーチだった。 
ご近所さんといえばご近所さんなのでそのときは「Aさんだー」と思っただけ。 
で、実家に帰ったら母は言う「お母さん、再婚しようと思うの」
相手はやっぱりAさんだった。 

付き合いだしたのは父が生きてたころ。手を繋いで町を歩く以上のことはしていない。 
母もAさんも地域活動には参加するほうだったので、うちが子供野球と縁がなくなったあとでも 
細々とした付き合いや連絡の取り合いはあった。 
そのうえ母とAさんは同じ業界の人。

AさんはA奥親の介護のための引越しを断ったことでA奥に離婚され、 
それをきっかけに母と同じ会社に転職していた(これは偶然らしいが)。ただし部署は違う。 
帰る方向が完全に一緒なので帰りにお茶を飲み、買い物をし、一緒に献立を考えたりしてるうちに 
お付き合いに発展したらしい。 
そして驚いたのは、父がこれらを知ってたということだった。 


「あんなにお父さんを大切にしてたじゃん、なんで浮気なんかできんの」と怒ってしまった。 
「父とAさん、同時に愛せるなんてできるわけないでしょ。それは裏切りだよ!」と。 
「浮気なんかしてない。お父さんを裏切ったことはない。 
大事なのも好きなのもいつもお父さんだった。お父さんに隠し事はしないからお父さんも知ってた。 
それ以上Aさんとどうなろうと思ったことはなかった」 
「お父さんとはいつも話してた。僕はどうしても先に死ぬから、その時は誰かと幸せになりなさいって。 
菩提を弔って一生を終える私なんて見てたくないって(これは私も聞いたことがある)」 

「再婚を反対するのは仕方ない。じゃああんた、これから私が死ぬまでそばにいてくれるの? 
結婚もせず子供も産まずに、私と手を繋いで歩いてくれる? 
お母さんの作ったご飯を美味しいよって笑って食べてくれるの? 
今日も可愛いねって言ってくれるのは、あんたじゃ無理」

話が通じない、と思った。「弟妹に相談する!」と喧嘩別れして、弟妹に別々に愚痴った。 
妹「お母さんがそういう人なのは知ってた。相手がAさんなのは意外かな。再婚?いいんじゃない?」 
弟「再婚がイヤっていうおねえの気持ちも良く解るけど、母さんの人生は母さんの人生だし。 
実際、母さんが死ぬまで一緒にいるなんておねえも無理だろ?」 

母姉(私の伯母・独身)に相談 
「あの子(母)はねぇ、昔っからそうなのよ。腰が落ち着かないというか、気が多いというか。 
義弟君(父)とン十年、仲良くやってくれて義弟君には感謝してるのよ? 
よくあの子を捕まえていられたなぁって… 
再婚?私には口出しできないわ。私ちゃんが反対なのも仕方ないけど」 


母親友(高校時代の同級生・独身)に相談 
「母ちゃんはねぇ、昔っから同時に何人も愛せる人だったよ。 
それぞれに誠実だから、タチが悪いって言ったらタチが悪いんだけど、
不思議と修羅場を見た記憶はないな。 
お父さんも知ってた?そうだろうね。隠し事はしない子だったから。 
多分、お父さんが嫌がったらお付き合いもなかったと思うよ。 

嘘はつかない子だから、手を繋ぐ以上のことはしてないってのも本当だと思う。 
許せない気持ちはわかるけど不倫してたわけじゃないなら、その辺は解ってあげてほしいな。 
再婚に反対?子供からしたら仕方ないよね」 


父姉(私の伯母・4人子持ち)に相談 
「私母ちゃんには良くしてもらったし、(父)からはそういうの聞いたことがあるよ。 
(父方祖父は鬼籍、祖母は母の紹介で施設入り。2ヶ月に1回以上くらいで祖母の話し相手になり、伯母の相談相手になってるらしい) 
本人は全く悪気なく誰かを好きになっちゃうのね。 
(父)は「俺がいるうちは俺が一番だからいいんだ」って言ってたよ。 
そういう裏切り方はしないから大丈夫、って。 

(父)を裏切るのかって思わないでもないけど、口出せるほど私母ちゃんのこれからに責任とれないし、 
良くしてもらってることが多すぎて、私母ちゃんの幸せを願ってしまう。仕方ないよねって。 
再婚に反対?そういう気持ちも解るよ」

母が誠意を持って複数を愛せる人、と知ったのが修羅場。それを私以外が知ってたのも。 
再婚に反対してたのが私だけだったのも、それも仕方ないって聞いた人全員が同じ意見だったのも。 

その後、母と手を繋ぐというよりは「手を優しく包んで」歩いてるAさんに出くわし、 
恥ずかしそうに嬉しそうに「ごめんね」と謝られ、
初々しい中学生カップルみたいな雰囲気に気が緩んでしまったこと、 
母姉に「私なんて付き合ったことどころかしょryなのに妹が二度目の結婚とか」と聞きなくなかった情報とともに愚痴られたこと、 
「親っても他人だよ。他人の色恋に口出しする余裕があるなら男連れてきなよ」と弟妹にpgrされたことも修羅場。 


母が父を好きなのも大切にしてたのも本当。 
誰も母の誠意を疑ってなかった。 
子供みたいに一緒に遊んでくれる良い母だった。
反抗期でさえ、ウザいと思ったことはあれど嫌いだったことはなかった。 
気持ちの整理はまだつかないけど、祝福はできないけど反対はしないでいようと思えるようになった。 
しかしうちの家族というか親族というかはみなドライだな。