いきなりだけど、自分の目の前で急病人発生とか、事故とかが起きるっていう経験、普通の人間なら一生で何回経験して何歳ぐらいで一回経験するんだろうか?

俺は今30代だけど経験したのは24の時に一回だけだった。


会社で飲み会があったとんだがその飲み会、基本は俺の居る部署の部長が主催するけど他の部署の人とかも気軽においで、という感じの軽い雰囲気の物。

そのときの飲み会は雑居ビルの2階にある居酒屋で行ったんだけど、別部署の偉い人(Aさん)が窓から一回の別のお店に入る更に別部署の人を発見。

「ちょっと俺達と飲むように呼んでくる」

とかいって千鳥足のまま店を出てしまい、俺は部長に

「俺君、ちょっとついて行ってくれ」

といわれてついて行った。

後から聞いた話だとAさん、酒飲みの癖に酒癖が悪く、不愉快な事があると暴れるくせに会社で一番の年長者で社長クラスでもなかなか文句が言えないというお局様の男バージョンみたいな人。

なので部長はもしAさんが暴れ始めたら俺に止めさせるつもりで着いて行かせたらしい。

で、俺はAさんより先回りしてエレベーター呼んで中に入れて、一回の店へ。

一回の店では別部署の部長(Bさん)と何人かが飲んでてAさんが呂律の回らない口調で

「二階に居るからお前らも来い」

見たいな事を言ってるんだけどその人は

「他の人と合う約束があるから無理」

と応答。

Aさんは

「じゃあ仕方ない」

と言って階段で戻ろうとしたけど足元がふらついていたので俺が

「エレベータ来ましたから、それで行きましょ」

となだめてエレベーターで二階の店に戻った。

その一時間程後、Aさん

「あいつら遅いな、ちょっとどついて来る」

と言って店外へ。

部長「俺君、ちょっとついて行ってくれ」

俺、慌てて後を追う。

ただ、このとき俺は一時間前よりかなり酔っていて後を追うのが遅れてしまった。

エレベーターの前にはAさんは居なくてすごいフラフラしながら階段を下りようとしているAさんを見つけたのでAさんに

「階段は危ないですからエレベーターで行きましょ」

と声をかけたらAさん、こっちに振り向いたんだけどその瞬間足を踏み外して階段を滑り落ちてった。

慌ててAさんに近づいたらAさん、ピクリとも動かない。

何回かAさんの名前を呼んでも反応せず、さらに頭の所から血が流れ初めて床に広がり始めた。

俺はパニックになってしまって一階のエレベーターに乗ろうとしていた女性(だいぶ若かった、大学生とかで俺より年下だと思う)の肩を掴んで救急車を呼ぶよう要請、その後階段を登って二階の店に飛び込んで部長に報告。

部長と何人かを連れて一階に行くとさっきより血が更に広がっていた。


このとき俺はパニック状態。

俺がAさんをエレベーターに乗せなかったから~とか、俺が声をかけてしまったから~とか、これでAさんが死んでしまったらどうしよう。

なんて事ばっかり頭の中を周ってて、子供みたいに泣き喚いてた。

さらに部長やBさん、同じ部署の先輩とかが

「あーこりゃひどいね~」

なんて大した事でも無いような口調で言うものだからかえって混乱してしまった。

(なんで混乱してしまったのか分からないんだけど、部長やBさんの口調が俺を責めているように感じてしまったんじゃないか?と後で人事の人に言われたのでそんな感じなんだと思う)

で、救急車が到着、Aさんは搬送されるんだけど、Bさんが付き添い、なぜか俺も付き添いする事になってしまった。
Bさんは救急車の中で社長やAさんの家族に連絡を取っているので救急隊員は泣き喚いている俺にAさんの事を聞いて来る。

でも俺はAさんの事は苗字ぐらいしか知らない。

「この人のフルネームは?」

「わがりばぜん…」

「住所は?」

「わがりばぜん…」

救急隊員に

「分からないじゃないでしょ!」

と怒鳴られる始末。

結局この受け答えは社長らへの連絡を終えたBさんが全てする事に。

病院についたらAさんは処置室に運ばれて俺とBさんが待合室で待つ事に。

その間も俺は頭の中が「俺のせいだ」しかなくて、少しは落ち着いたもののずっと泣いてえぐえぐ言ってて、Bさんにコーヒー奢られるわ少ししてやってきたAさんの奥さんと息子さんに慰められる始末。


結局Aさんは頭蓋骨にヒビは入ったけど命に別状は無く後遺症とかも無くてしばらくして退院。

退院して一ヶ月もすれば笑い話の一つになったんだけど俺の中ではまだ尾を引いてたみたいで、他の人がその話をすると気分が悪くなるなんて事が何ヶ月も続いた。

特に身長185、体重95の大男である俺が慌てて泣き喚くのが相当おかしかったみたいで同期や後輩に結構な笑いのネタにされていっそ仕事をやめてしまおうかなんて思ったりもした。

俺からすれば目の前で人が倒れて大量出血なんて始めてだから混乱しても仕方ないだろ。

と言いたいんだけど、その時の他の人の冷静な反応を見ていると俺だけが異常でなんか障害でも負っている様な気がする事が今でもある。

あと自分より30センチも背の高い大男に行きなり肩を掴まれた女性や、泣くだけで何も答えない大男に手を焼いた救急隊員なんかもけっこう修羅場だったんじゃないかと思う。