まだ、携帯電話もポケベルも広まってなかった頃の話。

実家は間違われやすい電話番号のようで、いつも間違い電話がかかってきた。


酷いと

「お宅何番です?」

なんて聞く人も。

一番頭にくるのが、

「はい、もしもし、鈴木(仮)です」

と受け応えた瞬間、ガチャ切りする人。


なので、ある時から、受話器をとったら、

「もしもし」

とだけ応えるように教えられた。

「はい、もしもし、鈴木です」→(やべ、間違えた)→ガチャ切り

「もしもし」→「田中さんですか?」→「違います」 →ガチャ切りされることは無い。

自分から名前を名乗ったら、悪用されてしまうかもしれないから(その番号が鈴木さんと知れてしまう)、必ずそうするようにと、言 い聞かせられた。

ある日、家に一人でいるときのこと。

昼過ぎくらいに電話が鳴って、応対した。


私「もしもし」

相手「あ、もしもし?みーちゃん?」

私「違います」

相手は若い男の声だった。

もちろんみーちゃんは我が家にいない。

また間違い電話か~と思って応えると、この男は勝手が違った。

男「違う、か…。ま、そう思われても仕方ないっか…」

私「!?」


当時私は小学生ながら、声色なんかは大人とそんなに変わらなくなっていた。

(電話口で「旦那様ご在宅ですか?」と聞かれる感じ)

どうにも、その男は、夕べ会った女性のつもりで話しているよう。

こっちは黙ってるだけなのに(思考がとまった)、夕べの出来事を語る語る。

男「俺、 夢中でさ。君の気持ち考えられなくて…、本当に、悪いことしちゃったなって」

私「あの…人違いですよ?」

男「…ハハッ。嫌われちゃったなぁ」

私「!?」

何を言っても暖簾に腕押し。

普通に考えれば、一方的に切るなり、鈴木ですって名乗れば良かったんだけど

「こっちから名乗ってはいけない。悪用される」

「しつこい勧誘でも、一方的に切るのは自分を落とす行為だ」

と日々母に教え込まれた女児には、なかなか行動に移すことができなかった。

しかし、子供ながらにも聞いちゃいけないことを聞かされ続けて堪らなくなり(帰り際、無理矢理抱きしめてキスしたそうだ)ついに意を決して言ってやった。

「うちは、鈴木ですけど」って。

そしたら、長~い沈黙の後、

「…… すいませんでした」

と呟いて、男は電話を切った。

暫く経って、また若い男から間違い電話かかってきたんだけど(同一人物か不明)男が間違えて内線登録したのか、女の人がウソ教えたのか…。

書き起こしてみると大したこと無いけど、当時は

「電話を切りたいのに切れないよ~。聞いちゃいけない話だよ~」

と、半泣きだった。

恋は盲目っていうけど、男の解釈っぷりが衝撃的でした。