小学3年生のときのこと。家に帰ると、(自営業なので)お店の床に、中年の男の人が土下座してた。 
床は鉄板が敷かれていて、しかも11月だったのでさぞや冷たいだろうに、その人は蹲って動かない。 
うちは金貸しでも料理屋でもなくただの小さな金網屋なので、客に土下座されるような 
大きな商売もしていないはず。その男の前で、祖父と父がすっごく困った顔して立ってる。 

少しして私に気付いた母が「こっちへいらっしゃい」と手招きをする。 
男の前を恐る恐る通ると母は住居の方までついてきて、「お母さんがいいって電話するまで 
出てきちゃ駄目よ」と言われ、夕飯まで出してもらえなかった。 
夕飯のとき先程の出来事を聞いてみたが「子供は聞かんでもいい」と言われ、最近まで真相を知らなかった。

真相は、その男の人はお客さんでもなんでもない初対面の人で、うちの会社の業績を 
商工会議所で調べて、「金を貸してほしい」と頼みに来たらしい。そこからとうとうと、 
自分の借金話や会社の倒産、一家離散などの事情を話し続け、祖父と父がどれだけ 
「うちは慈善事業でもないし、あんたが言うほど儲かってる訳でもない。 
あんたに貸せるお金もないし、返す見込みがない人には貸せない。帰ってくれ」と言っても 
そこから離れず、結局警察を呼んで仲裁に入ってもらい、17時頃にようやく帰っていったらしい。 
お陰でお客さんは気味悪がって帰ってしまい、男が大声で泣き出すものだから電話の声も聞けず、 
あやうくお客さんの一人を怒らせるところだったという。 
帰り際に男は「いいですよね。○○さんは…。お嬢さんが元気で、家もあって…。これから皆さんで 
温かいご飯でも食べるんでしょう…?」と呪詛の言葉を吐き捨てて行ったそうな。 
全然普通の家だと思っていた私にとって、このことは生まれてきて最初のショックだった。 
他にも、中学のときに郵便物の仕分けの手伝いをしていたら、父と祖父宛に、 
自分の境遇を葉書いっぱいに書き、最後に「こんな私を哀れと思ってくださるのなら、 
どうか300万円貸してください」と結んであった便りも見た。 
確かにバブル華やかなりし頃だったけれど、 
我が家はそういう不幸な人を引き寄せる属性でもあったんだろうか…。